2015年3月15日日曜日

サザンオールスターズ『綺麗』

昨今もまだまだあれこれ話題の“国民的バンド”、サザンオールスターズ。そんなサザン関連作品の中でも、評価が世間的にいまいちとか、あまり触れられないけど個人的には思い入れのある作品を不定期でダラダラ語っていこうと思います。


今回は83年作『綺麗』です。その後のサザンや桑田さんを知ってる上でこれを聴いてもあまり見えてこないかもしれませんが、『熱い胸さわぎ』から『NUDE MAN』まで順を追って、いざこのアルバムを聴くとあからさまな路線変更に面食らうのではないでしょうか。そもそもは桑田さんやメンバーが既にそれまでのパターンというか、サザンに飽きてきたという危機感がきっかけだったようですが、サザン・ロックだジャズだ言ってたバンドがシンセ多用のニューウェーブ、ファンカラティーナの方向に向かってしまいました(曲単位では確かに前年に「走れ!!トーキョー・タウン」「NUDE MAN」とかあったんですけど)。もちろん従来のラテン歌謡やレゲエもの、三連の曲もありますが、どれも意図的に泥臭さを排除しています。バタ臭いラテン歌謡や直球のブルージーな三連ものは、93年まで10年間封印することとなります。

そしてどういう繋がりなのかわかりませんが(ジューシィ・フルーツ〜戸田誠司さんの流れでしょうか?)“湾岸系”の矢口博康さんの起用、またマニュアル演奏の電子楽器のみならず、リン・ドラムやオーバーハイムのDMX?といったドラム・マシンによる自動演奏の導入まで、とにかく新しいことづくめのアルバムでした。おそらく桑田さんの曲作りもあまりそれまでのわかりやすいパターンにならないように意識したのが災いしてか、今となっては“ピンとこない”扱いになっているような気もします。桑田さんの歌詞も、それまでと違い明確にストーリーやテーマを決めて、惚れたはれたのラブ・ソング以外のテーマで書かれているものが多くなっています。

A面からいきましょう。A-1「マチルダBABY」はシンセ・ベース(ライブでは原さんが弾いてますが、この録音はマイクロ・シンセを咬ませた関口さんによる演奏でしょう)から始まる、桑田さん曰くMen At Workを意識したという、でもちょっとファンカラティーナ調の一曲。矢口さんの多重サックスや、一瞬登場するシモンズなど、新境地に相応しいサウンドです。A-2「赤い炎の女」はラテン歌謡ですが前述のように洗練された雰囲気で、大森さんのガット・ギターがなかなか良い感じです。A-3「かしの樹の下で」は中華風メロディをシモンズにマイクロ・シンセにヴォコーダーに胡弓で固めるという、ニューウェーブならではなサウンドです。A-4「星降る夜のHARLOT」はレゲエですが、いつものような中南米直系ではなくイギリスのバンドあたりを経由したような感があります。A-5「ALLSTARS’ JUNGO」は2コードで関口さんのスラップが唸るファンキーな曲ですが、ドラムはおそらくリン・ドラムとシモンズと生ドラムを組み合わせているようで、なかなか凝っています。A-6「そんなヒロシに騙されて」は原さんヴォーカルのお遊び風ベンチャーズ歌謡で、間奏では男性ファンの熱い声援を入れたりしてますが、サウンドにストレンジさを出すためか、ドラムはそんなヒロシさんでなくマシンの演奏に聴こえます。A-7「NEVER FALL IN LOVE AGAIN」もマシンのビートとエレピをフィーチャーした、三連なのに全くこれまでと調子の違う、桑田さんの歌も含め繊細な、AOR調の仕上がりになっています。

B面、B-1「YELLOW NEW YORKER」はこれまでもありましたBilly Joel路線。B-2「MICO」はまたまたニューウェーブ、エスノ風でシモンズ、マイクロ・シンセ、矢口さんのサックスなどがサウンドを彩っています。B-3「サラ・ジェーン」はAOR、当時で言うソフト&メロウ路線でこれも「女流詩人の哀歌」など既存のジャンルではありますが、この後もしばらく力が入れられていくことになります。桑田さん以外の5人の味のある演奏に新田一郎セクションのブラス隊、八木のぶおさんのハーモニカの組み合わせがたまらない、個人的にはこのLPのベスト・トラックです。どなたの趣味か存じませんが、フジパシフィック出版の非売品25周年コンピレーションにも収録されていました。B-4「南たいへいよ音頭」は関口さん作・ヴォーカル曲ですが、これもBlue Rondo a la TurkやCulture Clubあたりのファンカラティーナを意識した曲のようです。矢口さんがサックスで参加、マシンのリズムも使われています。B-6「EMANON」もソフト&メロウな、アーベインな一曲で、こんな曲をアルバムと同日に、しかもアルバムと同じデザインのジャケットでシングルリリースするという行為自体がかなり挑発的でした。そして最後はB-7「旅姿六人衆」、突如「Hey Jude」をアメリカン・ロック風に仕立てたような熱いバラードが登場し〆となります。



2 件のコメント:

  1. 「サラ・ジェーン」大好きです💖(というかこの曲しか聴き返さない)。

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  2. tuesday breakheart2023年2月27日 20:11

    「サラ・ジェーン」はもともと私の好みなサウンドというのもあるのですが、情感溢れる演奏がとても良いですよね。何度でも聴き返せます。

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