2018年4月30日月曜日

早川義夫「アメンボの歌」[桑田佳祐Songbook]

元ジャックスの早川義夫さんは69年のファースト・ソロ・アルバム『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』をリリース後、数年で音楽活動を停止し、個人書店早川書店を経営していました。94年に音楽活動を再開し、セカンド『この世で一番キレイなもの』をソニーからリリースします。

話は変わりますが93年、厚生省(当時)は音楽業界等とエイズ啓発イベントである「Act Against Aids」を始めます。毎年12月1日にコンサートが開かれており、このイベントにアミューズが深く関わっていることから、高い確率で桑田さんも参加することになります。93年のAAAコンサートは、日本のポップスの名曲を参加者が歌うというコンセプトでした。同年秋の桑田さんのシングル「真夜中のダンディー」のカップリングでカバーされた「黒の舟歌」などはこのコンサート用の選曲があってこそ録音されたものでしょうし、翌年のソロ・アルバム『孤独の太陽』のコンセプトにも大きく影響するものだったと思われます。

そして、94年のAAAコンサートでは音楽活動を再開した早川義夫さんが参加しました。持ち歌では「ラブ・ジェネレーション」「サルビアの花」「いつか」を披露しています(早川さんの直後がMr. Childrenというのも凄い並びです)。3年後、97年のAAAでは全編桑田さんのソロ・コンサート「歌謡サスペンス劇場」が催され、早川さんの「サルビアの花」も取り上げられています。

さて、そんな流れの中、早川さんから桑田さんに楽曲提供の依頼がありました。この辺の詳細は早川さんの著書「心が見えてくるまで」(ちくま文庫)に早川さんの視点からの経緯が描かれていますので、是非そちらをお読みいただくとして、97年に早川さんのシングルとしてリリースされたのが「アメンボの歌」でした。


それはいかにも「97年の桑田佳祐」的な、眉間に皺の寄った、肩に力の入った楽曲・録音でした。レコーディングは当時行なわれていたサザン『さくら』、原由子さんと香取慎吾さん「みんないい子」、原由子さん「涙の天使に微笑みを」と同じ体制で録られていると思われます。つまり、角谷仁宣さんと林憲一さん、桑田さんの3人体制での制作です。山本拓夫さんのサックスと原由子さんがダビングに加わり、録音・ミックスも桑田さんの自宅とビクタースタジオで行なわれています。最後に早川さんがビクタースタジオに出向いて歌を入れる、というような、完全に桑田さんサイドでのレコーディングだったようです。

もともとオファーを受けた桑田さんは意図的にバラードを避けていたそうで、これはこれで聴いた感じは悪くないのですが、早川さんの自作でなくとも、例えばもりばやしみほさんの提供曲ほどハマってないといいますか…早川さんも他流試合に若干苦戦している感じが伝わってきます(この辺も早川さんの著書に書かれています)。その緊張感が魅力、とも言えますが…。カップリングの「嵐のキッス」は早川さん作・佐久間正英さん編曲で、そうる透さんを加えた3人での録音ですが、こちらの方が安心して聴けます。

また、早川さんがピアノで弾き語るには難易度が高かったようで、ライブであまり歌われることがなかったというのも残念なことでした。期待されたチャート・インにも至らなかったようです。

というのが今のところの最終回というのが我ながらアレだとは思いますが、桑田さんの提供曲を追いかけるシリーズはいったん終了です。曲数も少なく、知名度が低いものが多いですが、ふと聴いてみると結構良いものがありますので、まだ未聴のものがある方は是非ともおためしください。そのうちまた、提供曲が生まれることを祈りつつ…。