2016年6月5日日曜日

ベティ「I Love Youはひとりごと」[桑田佳祐 Songbook]

桑田さんの新曲A面、たまたま聴きましたが、久々、20年近くぶりに、ニヤッとしてしまいました…。

さて、原由子さんのソロ・デビュー・シングルにして放送禁止指定を受けたということで有名な「I Love Youはひとりごと」ですが、これは原さんのソロ用に用意されていたのか、当時アミューズに所属していたタレントのベティさんに書き下ろされた作品なのかはっきりしませんので、このシリーズでも取り上げることにします。

南雲海人さんのブログによると、80年頃、大阪のオカマバーで働いていたベティさんは南雲さんを介し当時のアミューズ大里社長と知り合い、アミューズに所属することになったようです。ベティさんの著書によれば、原さん用に用意されていた「I Love Youはひとりごと」にオカマトークを入れるにあたり、大里社長がスカウトした、という流れになっています。しかし、結局原さんのバージョン、ベティさんのバージョン共に、オカマ役は作者がハーモナイザーをかけて担当しています。
(ちなみに、このアミューズ所属時にベティさんに用意された肩書きが「ニューハーフ」で、ベティさんと桑田さんの会話をベースに桑田さんが造った言葉、ということになりました。後年、桑田さんがラジオで自ら造ったことを否(略)
「ニューハーフ」は数ヶ月後には松原留美子さん等も使うようになり、早々にアミューズの枠を離れ、一般名詞となったのはご存知の通りです)

桑田さんはこの曲でジャズ風味の歌謡曲に挑戦しています。そもそも60年代ナベプロ系歌謡をラテン風ディスコ・ビートで、というのがサザンのデビュー曲のコンセプトでしたが(そういう意味で大里さんとの出会いはまさに運命ですね)、『タイニイ・バブルス』収録の「私はピアノ」でまたまた60年代前半のナベプロ歌謡の世界に挑戦、これが高田みづえさんのカバーでヒットします。そんな流れで、当時のサザンでは敢えて積極的に手を出さない、いわゆる歌謡曲路線制作の機会・また“日本のThelonious Monk”こと八木正生さんとのコラボの機会という点で、この楽曲提供は絶好のタイミングだったのかもしれません(81年、桑田さんは原由子さんのソロ作やサザンの『ステレオ太陽族』と、ことレコーディングに関しては八木正生さんとのコラボばかりになります)。ベティさんバージョンは梅田(堂山町?)が舞台の男と「女」の妖艶な世界が描かれており、男色のジャズ風エロ歌謡という、あまり類の無いパターンの楽曲に仕上がりました。


81年4月21日、ベティさんバージョンはCBSソニー、原さんバージョンはインビテーション(ビクター)からそれぞれリリースされました。原さんバージョンはHARABOSEによるリズム・アレンジで、管弦のみ八木正生さんのスコアです。女性バージョンなので舞台は渋谷(円山町?)になっていますが、前述の通りオカマトークはしっかり入っています。原さんバージョンだけ聴いてると、このトークの意味が全く分かりませんよね(原さん用に書かれた曲だとすると、なぜオカマトークを入れることになったのか経緯がわからないのですが…)。

リリース後は民放連による要注意歌謡曲Aランク指定、いわゆる放送禁止指定を受けたわけですが、なにぶん理由が一切明らかにされないものなので、はっきりした原因はよくわかりません。ベティさんの方が先に引っかかって原さんの方も一緒に指定されたという説もありますが、男色の過激な歌詞というのがまずかったのでしょうか?これを受けてアミューズでは、ジューシィ・フルーツ「これがそうなのね仔猫ちゃん」のリリース・プロモーションをかねて5月10日、原宿で抗議ゲリラライブを開催します。サザン・ベティ・ジューシィや近田春夫さんらが勢ぞろいし、男性は全員女装でライブを行ないました。

なお、ベティさんのシングルのB面はカラオケが収録されており、演奏はA面と同じですが薄くガイドメロのブラスが入っており、これはこれで味わい深いトラックです。

2016年6月4日土曜日

Katie Kissoon「I Need A Man In My Life」[Ken Gold Songbook]


Katie Kissoonはトリニダード出身、60年代にイギリスで、当初はPeanutの名前でレコード・デビューしており(Beach Boys「I'm Waiting For The Day」のカバーなどありました)、70年代になると同じく活動していた兄のMacとKissoon兄妹のデュオとして活動していました。イギリス初めヨーロッパのチャートにいくつかのヒットを送り込みますが、80年代になるとそれぞれまたソロ活動に戻り、Katieは裏方として、コーラスの仕事を増やしていく一方、いくつかシングルをリリースしていました。83年からJIVEと契約し、84年にリリースされたシングル「I Need A Man In Life」がGold-Denne作品で、プロデュースはKen GoldとPete Q. Harrisがクレジットされています。

前年の「You're The One」などは黒っぽいエレクトロ・ファンクといった感じでしたが、「I Need A Man In Life」はKatieとしても、そしてGold作品にしても珍しい、明るく楽しいアッパーなハイエナジー路線の楽曲です。Goldらしいベタでポップなメロディにいかにもハイエナジーらしい打ち込みシンセサウンドで、Goldとしても新たな挑戦の一曲だったのかもしれません(結局この一曲しかこの路線は無かったようですが…)。Pete Q. Harrisは同時期に同じJIVEからリリースされているBilly Oceanの大ヒット・アルバム『Suddenly』にフェアライトのプログラマーとして参加しており(Katieもコーラスで参加しています)、この楽曲でも打ち込みを担当しているのでしょう。B面はAcappella Mix、また12インチではExtended Club MixやDub Mix等別ミックスが収録されました。


そしてこの曲がGold-Denneコンビとしては最後の作品のようです。約10年作曲活動を共同で続けていた二人がコンビ解消した理由は全く分かりませんが、コンビ解消後も、Goldはペースは落ちるものの引き続き作曲家・プロデューサーとしての活動を続けていきます。1985年にJIVEからリリースされたイギリスのキッズ・ソウルもの、Warren Mills『Warren Mills』収録の「Flame In The Fire」はBilly OceanとGold、さらにPete Q. Harrisのトリオ作・プロデュースで、「It's Particular」はOcean-Gold作、Ocean-Harrisプロデュースのクレジットがあります。前者は同時代的なシンセ・ファンク、後者はオールディーな60年代シャッフルものをシンセ・サウンドで彩った、いずれも当時のBilly Oceanの色が強めな雰囲気でしょうか。

そしてこれ以降80年代後半、Goldの作曲家としての活動は把握できておらず新曲も私の知る限りあまり見当たらなくなるのですが、89年からの数年、突如大物たちへの楽曲提供が続きます。