3作目『Delegation』リリース後、Delegationのメンバーの一人、Bruce Dunbarがグループを脱退します。Ricky BaileyとRay PattersonのデュオとなってしまったDelegationですが、さらにはAriora移籍後、ヨーロッパやアメリカでのチャート成績とは裏腹に、イギリスで一度もチャート・インできていませんでした(Baileyはレーベルのプロモーションが原因と話していますが…)。レーベルからのプレッシャーも重くなる中、新作に向けてプロデューサーKen Goldは、ややマンネリ気味だった前作よりもアップ・トゥ・デイトなサウンドを二人に用意することとしたようです。アルバムは82年3月頃、『Deuces High』のタイトルでリリースされました。
前2作に比べると、日本盤CDのライナーで金澤寿和さんが書いていらっしゃる通りクールな仕上がりとなっています。Robert Ahwaiのキレのあるギターは相変わらず健在ですが、Lynton Naiffがシンセサイザーを多用するようになり、「What Took You So Long」ではエレキ・ベースでなくシンセ・ベースが使われています。英盤CDライナーでSteven E. Flemming Jr.が書いていますが、この辺はアメリカの同時代的なサウンドからSolarものやKashifのサウンドをチョイスして参考にしているのかもしれません。イギリスでも、当時はCentral Line、Imagination、Linx、ShakatakやLevel 42など、新世代のソウル、ファンク・グループが次々と登場していました。
また、特筆すべきは、アルバム全編に渡るリン・ドラムの使用です。おそらくLM-1を使用しているかと思いますが、この時点でこの手のサウンドの作品に全編でLM-1を使用するというのは比較的早かったのではないでしょうか。LM-1のポップスにおける利用を見てみると、Herbie Hancock『Mr. Hands』(「Texture」)が80年9月のリリースで、81年になるとニューウェーブ方面の方々がLM-1を作中で使い始めます。やはりイギリスのミュージシャンの割合が多かったようですが、そんな中Princeが81年10月リリースの『Controversy』(「Private Joy」)でLM-1を使用、同月George Bensonがリリースしたシングル「Turn Your Love Around」でもLM-1が使われ、82年初頭にかけ大ヒットします。ブラックミュージック界にもドラムのマシン化の波が発生した、まさにそんな時流を見極めての使用だったのではないでしょうか。霊感ですがMarvin Gayeが82年10月リリースの『Midnight Love』においてTR-808を全編に渡り使った理由のような、後ろ向きな理由ではないような気がします(808に比べLM-1は高かったし…)。とは言うものの、GoldはあくまでLM-1にシンプルな、ライブで違和感無く人間が再現できるような演奏を行なわせており、Marvinのように独創的なプログラミングを行ったわけではないというのも面白いですね。
A-1 What Took You So Long
A-2 I Figure I'm Out Of Your Life
A-3 If You Were A Song [*Bailey-Patterson]
A-4 Gonna' Bring The House Down [*Bailey-Patterson]
A-5 Tell Her
B-1 Dance Like Fred Astaire [*Bailey-Patterson]
B-2 No Words To Say
B-3 Would You Like To Start A Thang With Me [*Bailey-Patterson]
B-4 Dance-time U.S.A. [*Denne-Hansen]
Gold-Denneコンビ作は4曲と少なめですが、どれも粒ぞろいです。「What Took You So Long」はLM-1とRobert Ahwaiのギターの組み合わせでスタートする哀愁アーバンもの。「Gonna' Bring The House Down」との組み合わせで12インチと7インチでシングル・リリースされていますが、LP・12インチ・7インチで長さがそれぞれ異なる別バージョンが収められています。印象的なベース、アーバンなサックス・ソロが魅力の「I Figure I'm Out Of Your Life」は翌83年にArnie's Loveが「I'm Out Of Your Life」のタイトルでカバーし、UK67位を記録しています。メロウなミディアム・スロー「Tell Her」、そして「No Words To Say」も軽めですが印象に残る泣きのメロディ、個人的な趣味ではどれも甲乙つけがたい出来です。
また、どのタイミングでリリースされたのか不明ですが、メンバー2人による渾身のバラード「If You Were A Song」(B面は「No Words To Say」)がDude Recordsという謎のレーベルからシングル・リリースされています(“この”Dudeはこれ1枚しかリリースが無いようです。また、2013年秋にDelegationは配信のみで現時点での最新シングル「I Surrender」をリリースしていますが、これにDude Recordsのクレジットがあります。ということは、Delegationの個人レーベルでしょうか?)。A面はLPと別ミックスで、ドラムは生、ベースはシンセに差し替え、さらに賑やかしのシンセがダビングされています。このシングル・ミックスは95年のDelegationのベスト盤『The Classics Collection』でCD化されました。
結局このアルバムは、アメリカではリリースを見送られてしまいました。イギリスでもアルバム、シングル「Gonna' Bring The House Down」・「If You Were A Song」はいずれもチャート・インせず、この作品を最後にDelegationはAriolaを去ることになります。DelegationのAriolaとの契約終了、またGoldの作家としての移籍もあってか、これ以降、Gold作品発表の場は減少していきます。
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