2020年3月9日月曜日

Denny McCaffrey「Midnight Creeper」「Goodbye For The Last Time」「Take Good Care Of Yourself」「Times」and others [Ken Gold Songbook]


1976年に録音されながら、2006年にDenny McCaffrey本人によってCDリリースされるまで眠りについていたアルバム『Come On In』に、Ken Goldファンにはおなじみの曲のファースト・レコーディングを含んだGold-Denne作品が多数収められていますのでご紹介します。

Denny McCaffreyは70年代からヴォーカリストとしていくつかのバンドを渡り歩き(Baby RuthやMcCafreyに参加しシングルがリリースされています)、75年になるとAnn OdelがRay Russellと結成したバンド、Chopynに参加します。ChopynはELOのツアーに参加していた経緯もあってか75年にJetからLP『Grand Slam』をリリースしています。

McCaffreyは76年になるとBruce Baxterと出会い、廉価カバーレコード『Top Of The Pops』シリーズのセッションに参加するようになります。その流れで、同年夏、Bruce Baxter(とエンジニアのMike Cooper)プロデュースでソロ・アルバムの制作が行われることになったようです。

『Top Of The Pops』シリーズといえばTony Rivers、そしてRiver「You're The Song」でストリングス・アレンジを担当したBruce Baxterです。ということで、McCaffreyのアルバムにもKen Gold & Micky Denneコンビの楽曲が取り上げられることになったと思われます。

その頃のKen GoldといえばCliff Richardへの楽曲提供、Real Thingへの楽曲提供&プロデュースとまさに快進撃を始めた頃です。このアルバム(というかセッションで録られた曲を全部入れてくれているのでしょうけど)では20曲中約半数の8曲がGold-Denneのペンによる楽曲です。

1-1 Somebody Needs Somebody [Gold-Denne]
1-2 Better Than Walking Out [Knight]
1-3 Every Time A Man Gets Lonely [Copyright Control]
1-4 There You Go [Webb]
1-5 Don't Make Promises [Gold-Denne]
1-6 Midnight Creeper [Gold-Denne]
1-7 Get Plenty Of Love [Copyright Control]
1-8 Giving It Up For Love [Wingfield]
1-9 Goodbye For The Last Time [Gold-Denne]
1-10 If I Could Just Be With You Tonight [Gold-Denne]
2-1 Let's Put Our Love Back Together [Gold-Denne]
2-2 Your Lovin' Is Something Else [Grant]
2-3 Lost For Words [Wingfield]
2-4 Come On In [Grant]
2-5 I Need Your Love [Foster]
2-6 The Pain Of Love [Webb]
2-7 Take Good Care Of Yourself [Gold-Denne]
2-8 Times [Gold-Denne]
2-9 Eyes In The Back Of My Head [Wingfield]
2-10 Just A Line [Webb]

Gold-Denneコンビ、というかDenne & Goldのファンにはおなじみ「Let's Put Our Love Back Together」「Midnight Creeper」、さらには「If I Could Just Be With You Tonight」と、78年作品『Denne & Gold』収録の3曲は、実は76年にDenny McCaffreyが録音しながらオクラになってしまった楽曲だったのでした。「Midnight Creeper」なんかは、こっちの方が重くて好みですね。

その他アッパーな「Somebody Needs Somebody」「Don't Make Promises」、スローなAOR風「Googbye For The Last Time」、3連の渋いスロー「Take Good Care Of Yourself」、オールディーなシャッフルもの「Times」など、当時のGold-Denneコンビらしい楽曲が並んでいます。

アルバム全体にリズム&ブルース、ソウルミュージックへの憧憬が感じられ、Gold-Denneコンビの楽曲以外も同じ傾向です。Grantというのは元The Equals、エレクトロ・レゲエ?でUK、ヨーロッパのみならずUSでもヒット曲を持つEddy Grantで、メロウでブルージーな「Your Lovin’ Is Something Else」が素晴らしく好みです。またWingfieldというのは「Eighteen With A Bullet」のヒットやSugarhill Gang〜Paul McCartneyまで幅広く関わるSSW/キーボードプレイヤーのPete Wingfieldで、シカゴ・ソウルを感じさせるハネるメロウな「Lost For Words」なども非常にお気に入りです。

演奏はChopynのドラマーでもあった当時19歳のおなじみSimon Phillips、ギターもChopynのRay Russell(『Denne & Gold』にも参加してますんで、あちらでは同じ曲で弾いてそうですね)、ベースは元AffinityのベーシストMo Foster。ここまでの3人はのちにRMSを結成するなど、さらに付き合いが続きます。キーボードは後にFusionを結成するReg Webb・プロデューサー兼アレンジャーのBruce Baxter・またまたChopynのAnn Odelなど…。本作はChopynのような英国ファンキー・ロック的な世界観とは異なり、あくまで歌モノという意識が制作側に強かったと思われますが、それでもしっかりとこの頃の英国ブルー・アイド・ソウルの世界が展開されています。レコーディングはPye Studioで行われています。Wingfield 作の「Giving It Up For Love」「Eyes In The Back Of My Head」などはこの面子で楽しそうに演ってる感じですね。

本作はブラスやストリングスのダビング、ミックスまで終えながら、契約上その他の問題でリリースに至りませんでした。2004年、McCaffreyがPete Wingfieldと初めて対面した際、このレコーディングの話題になり、それがきっかけでマスター発掘作業を開始、結果McCaffreyの旧友でもあった英国のサックス・プレイヤーSteve Williamsonの母親のガレージにマスターのコピーがあることがわかり、Ray RussellのOld Surgery Studioにてマスタリングに漕ぎ着けることができたようです。

Gold-Denneコンビの楽曲以外も含めて、私の好みの楽曲が入っていて非常に好きな作品です。あまり音質が良くないのが惜しまれますが、ガレージに残っていたテープからの修復ですので、聴けるだけでもありがたいですし、この方がレア音源感があるのでそれもまた味わいということで…。70年代半ばに幻と消えた、UKブルー・アイド・ソウルの名盤と勝手に呼ばせていただきます(と思ったら、Pete Wingfieldも似たようなことを言ってたみたいですね)。

なお、McCaffreyは近年はSpotifyで楽曲をリリースするなど、引き続き活動中です。

Thanks to Denny McCaffrey for your kindness.

2020年2月6日木曜日

The Real Thing『Best Of The Real Thing』(2020)

The Real Thingの新しいベスト盤、『Best Of The Real Thing』がリリースされました。
結成50周年を迎え制作された、グループの軌跡を辿ったドキュメンタリー映画「Everything - The Real Thing Story」の公開にあわせたアルバムのようです。

Ken Gold関連としてはDelegationなどど比べるとベスト盤を編まれる機会が多く(といっても本当にベスト盤ばかりで、オリジナル・フォーマットでのアルバム・リイシューの機会に恵まれてるとは言い難いのですが)、今回もグループの歴史を振り返るというのが念頭にあるのか、選曲は全盛期であるPye時代からの代表作中心です。曲順は年代順でなくシャッフル、というところで味を変えているようです。「初CD化」と謳われている7曲は全て、過去に公式に(Pye原盤ですので、PRT、Castle、Sanctuary、それから日本のビクターなどから)CDとしてリリース済みというのが気になるところですが…まあ細かいところは置いておきましょう。願わくば、Bell、EMI、Pye、Jive、RCAと、キャリアを全て網羅したベスト盤もいつか実現してほしいものです。

とにかく今回の収穫は実はReal Thingの3枚目のシングル用に書かれ、録音までしていたのにオクラになったKen Gold & Michael Denneコンビ作、「Someone Oughta Write A Song (About You Baby)」のオリジナル・レコーディングでしょう。Amoo兄弟の自作志向によりオクラにはなりましたが、Goldは同じトラックを使用し、別レーベルからThe Realisticsのシングルとして世に出すことになりました。正直イナタいRealisticsの歌に比べると、Real Thingバージョンはやはり貫禄の出来です。Realisticsの後にもGoldは自身がプロデュースする新人グループ、Delegationのレコーディングでも取り上げ米国ではシングル・カットしたくらいですから、作者としてはそれなりに拘りがあったのでしょう。ライナーが思いの外あっさりしてましたので、ここに勝手にしたためておきます。グループの公式TwitterアカウントにはVinylリリース希望のリプライなんかもいくつか付いていますが、この曲を7インチで、70s Pye風のレーベルデザイン(パープルとピンクのグラデーション)なんかで出してくれると、私のようなオタクはとっても喜びます。

さて、Ken Goldファンとして気になるのが今回の映画です。
オリジナル・メンバーのインタビューなどを通してTHE REAL THINGの歴史だけでなく、英国音楽史最初のブラック・ミュージック・レヴォリューションや70年代イギリスの時代背景なども捉えているという。」(メーカーインフォより)
ということなので、Real Thingファンならずとも非常に興味深い作品なのですが…さらに!出演者にはしっかりKen GoldやMichael Denne、Billy Oceanなんかがクレジットされています。Goldは新作の知らせはとんと聞こえてこず(出してたらごめんなさい)、公の場で過去の仕事について語るというのは非常に珍しい機会かと思います。日本でも配給していただくよう、是非ともお願いします…!