92年まで大物に1曲ずつ楽曲提供していたKen Goldですが、93年に全編に渡りプロデュース、バックアップしているアルバムがリリースされました。
英国ロンドンはabout timeというレーベルからリリースされているのが、素性はよくわかりませんがAnthony T. Gibsonというシンガーのアルバム『The Complete... Anthony T. Gibson』です。Completeと言いつつこれと収録曲「Ain't No Way」/「If You Need Someone」の12インチ1枚しか世に出ていない様子ですが、このアルバムのプロデュース・アレンジがGoldとGibsonの連名でクレジットされています。作家・Goldの作品は、今回はGibsonとのコンビで6曲、また単独作が1曲収録。それだけにとどまらず、Goldは1曲を除き全曲のコンピューター&シンセサイザー・プログラミング、また1曲を除き全曲のキーボード、そして全曲のレコーディング・エンジニアとしてもクレジットされています。つまりはインディーなのでGoldとGibsonの、少数精鋭の2人で制作された、という背景かとは思いますが、良くいえば非常にシンプルなサウンドに仕上がっている、ということで…。ちなみに録音は英国ではなく、米国はラスベガスということです。
アルバム全体としては70年代ブラックミュージックをベースに同時代的な要素を加えているといった感じです。作家・Goldのクレジットされた作品では、「Say It Isn't So」は渋い三連のソウル・バラード、またGold単独作の「Is It For Real」も同傾向の曲で、これも途中から三連になります。新機軸としては「Special Kinda Woman」「Take The Money And Run」の2曲がいわゆるNJSもので、93年ということを考えると若干ブームが過ぎ去っているのですが、Goldを魅了するものがあったのでしょう。Goldはこれに飽き足らず、これ以降もNJSにトライすることになります。「I Want A Lover」は直近ではMariah Carey「Emotions」の影響かと思しき、Emotions「Best Of My Love」・Cheryl Lynn「Got To Be Real」などでおなじみのビートを使った楽曲です。「If You Need Someone」「Searching For Romance」は70年代のシカゴあたりのソウルを思わせるビートを使った、渋い雰囲気ですが好みの楽曲です。また、Goldは作曲に関わっていませんが「Sitting In The Park」なんかはグラウンドビートの1曲だったりします。
地味ではありますが渋い1作となったこのアルバムを経た数年後、GoldはRicky Bailey一人で活動を続けていたDelegationと久々にタッグを組むことになります。