サザン関連、今回は90年リリースの『Southern All Stars』です。88年の復活以降のサザンは名実共に“国民的バンド”となり、メインストリームに祭り上げられる反面、『kamakura』の頃まではあったサブカル方面からの視線はほとんど無くなっていました(90年代に桑田さんがずっと思い悩むことになる部分です)。昔ながらのリスナーはこのアルバムでサザンを卒業した、といった声も良く聞かれます。さらにこれは私の根拠の無い妄想ですが、この頃はサザンの存続について色々内部的にも話があった状況ではなかったかと感じています。そんな最中にリリースされたアルバムではありますが、個人的に良く聴いたというそれだけの理由で、語ってみたいと思います。
確かレコーディング当初は原点回帰の、男っぽいアルバムにしたいと語っていた桑田さんですが、結果的にはポップで、何よりクールなアルバムになった感があります。音作りに関して言えば、制作体制が変わりました。それまではあくまでメンバーでのヘッド・アレンジが前提でしたが、本作からは87年春に桑田さんが訪問したHall & Oatesのレコーディング体制をベースにしたと思われる『Keisuke Kuwata』の手法を踏襲することになります。門倉聡さん・小林武史さん・松本晃彦さんといった外部キーボード・プレイヤー達と桑田さん、そして藤井丈司さんや菅原弘明さん等のプログラマーといった体制でしっかりアレンジ設計した後、必要に応じてメンバーの生音に差し替えるという流れになりました(出てくるお名前はほぼ皆藤井さん人脈なのが80年代中盤〜90年代の桑田さんサウンドの特徴と言えるでしょう)。また、今回はブラス、ストリングスも生音が使われていません。コーラスも基本は桑田さんの多重録音です。そのため、キーボードやコンピュータ主体の、良くも悪くもかなり落ち着いた印象のサウンドとなっています。おそらく、ソロの手法を踏襲したのは、サザン復活時の過去の名曲ばかり求められるような扱いから何とか抜け出し、現役感を出そうとする桑田さんの試みだったのではないでしょうか(88年にCD化された旧譜シングル達の好調な売れ行き、そして89年のアンソロジー『すいか』バカ売れを受け、桑田さんが渋谷陽一先生に面と向かって言われたのが“現役の懐メロバンド”という称号でした)。
M-1「フリフリ’65」は60年代半ばのお水でB級なGS〜和製ロックンロールの世界、といったところでしょうか。おそらくサザンの男性メンバー+小林さん、門倉さん、菅原さんでの男らしい演奏です。M-2「愛は花のように」はGipsy Kingsの桑田さん小林さん流解釈、といった感じです。そもそもサザンとは別に、このアルバム用セッション開始以前から映画「稲村ジェーン」用に録音が進められていたものでした。そういった事情から、小林さん藤井さんつながりと思われますが、小倉博和さんが初めて登場し華麗なガット・ギターを披露しています。M-3「悪魔の恋」は原点回帰でデルタ・ブルースっぽくやりたかったとのことでコンボ・スタイルの演奏ではありますが、あまり熱は感じられないというか、クールな印象です。M-4「忘れられたBig Wave」も映画「稲村ジェーン」用の録音なので桑田さんの多重アカペラという珍しいタイプの曲ですが、この時点で出来上がっていた映画用の2曲はどういう事情かサザンの作品としてこのアルバムに入ってしまいました。M-5「YOU」は88年の桑田さんソロに近い路線ですが、この曲に限らずこのアルバムをサザン側にぐっと引き寄せているのは、結果的に大森さんのギターなんじゃないかと随所随所で感じます。この曲のリムと皮を同時に叩いているかのようなスネアは、私の霊感によれば藤井さんが個人的に所有していたあの方のサンプ(略
M-6「ナチカサヌ恋歌」は原さんヴォーカルコーナーで、沖縄ものに挑戦しています。M-7「Oh, Girl」はHall & Oates的な一曲で、あまり語られませんが桑田さんのHall & Oatesからの影響って意外と楽曲やレコーディング方式など、様々なところで見られますよね。
M-8「女神達への情歌」も原点回帰もので、Little Featなど昔のサザンが持っていた熱気・ブルージーな感覚を、箱庭的打ち込みサウンドで再現するというコンセプトで作られました。この構造と同じく同じく箱庭の中のヴァーチャルな熱狂、ということでAV鑑賞を詞のテーマに選びサウンドとリンクさせていると思われます。唐突にこれをサザンのシングルで出すというのも冒険でした。M-9「政治家」は当時の小林さんとビートリーなサウンドを目指したらこうなった、という感じでしょうか。M-10「MARIKO」は門倉さんや小林さんなどみんなで情報を詰め込むだけ詰め込んだ感のあるシャッフルものです。M-11「さよならベイビー」はホイチョイ映画「彼女が水着にきがえたら」のオファーに応え書き下ろされた曲です。松田さんも関口さんも最後にちょっと登場しますが基本的には打ち込みサウンドで、やはり大森さんの味わいのあるギターが楽曲をサザンたらしめている気が…。ちなみにシングル・バージョンとちょっとだけ違う、別ミックスのアルバム・バージョンです。M-12「GORILLA」はTalking Heads風のほぼインスト曲で、大森さん作です。そして最後に急に6人揃ったような編成のシンプルなバラードM-13「逢いたくなったときに君はここにいない」でアルバムは幕を閉じます。「君」が何を指していたのかわかりませんが、結局この後も、サザンの歴史は続いていくのでした。