さて、そんな中、桑田さん側からのアプローチで、中村雅俊さんへの楽曲提供の話が立ち上がったようです。80年に提供した「マーマレードの朝」がオリコン最高121位とヒットに至らず、桑田さんとしてはリベンジの意図もあったようです。今回はシングル両面書き下ろしの新曲で、編曲・演奏まで桑田さんが関わっています。82年9月に1枚のシングルとしてリリースされました。
「恋人も濡れる街角」はボッサ歌謡で、中村さんの歌唱は桑田さんのデモをなぞったような特徴的な歌い方ですが、中村さんのフィルターが通ったことで前川清さん風と捉えることも出来ます。実際、この楽曲について桑田さんは自身のルーツのひとつでもある内山田洋とクール・ファイブ(唄:前川清)の影響下にあることを語っています。「恋人も濡れる街角」でフィーチャーされたガット・ギターについては「恋は終わったの」(70年のシングルのB面曲で、81年に再録のうえシングルA面としてリリースされていました)をヒントにしているということです。
演奏のクレジットは公開されていませんが、斎藤誠さんがギターはご自身であると語っていましたので、前述のガット・ギターやイントロでむせび泣くクリア・トーンのエレキ・ギターなども斎藤さんによるものでしょう。また斎藤さんによればベースはサザンの関口和之さんということです(確かに、当時の関口さんらしいベースです)ので、リズム隊はこの82年3月にライブ・アルバムをリリースした桑田さんの変名作品、『嘉門雄三&Victor Wheels Live!』のバンドの面々あたりかもしれません。このリズム隊と桑田さんによるヘッド・アレンジに、八木正生さんがどこまで関わったか不明ですが、さらには八木さんのスコアによる管弦、コーラスはEVEのお三方、といった感じでしょうか。
タイアップとして(楽曲とは直接関係のない)角川映画「蒲田行進曲」の主題歌として使われ、映画のサントラ盤にも収録されておりますがそちらでは「YOKOHAMAじゃ」の箇所が差し替えられています。
追記:2021年5月29日のTOKYO FM「桑田佳祐のやさしい夜遊び」で、桑田さんのもとにあった俳優としてのオファーの話で「つかこうへいさんがわざわざいらして」「平田満さんの」というキーワードが曖昧にふわっと語られていたため、出演オファーを断った代わりに製作中だったこの楽曲を主題歌として提供した、のかもしれません。
B面「ナカムラ・エレキ・音頭」はエレキ歌謡もので、「六本木のベンちゃん」と「そんなヒロシに騙されて」の系譜に属する曲です。おそらく演奏はA面のリズム隊と同じで、中村さんによると、コーラスというかお囃子・太鼓などはジューシィ・フルーツによるものだそうです(ジューシィは桑田さんと同じく事務所はアミューズ、かつ中村さんと同じくレーベルは日本コロムビアのBlow Up所属でした)。
さて、歌謡づいていた桑田さん入魂のシングルということで、見事前作「マーマレードの朝」から116ランクアップの、オリコン最高5位を記録するヒット曲となりました。また、リリースから1ヶ月後にB面の「ナカムラ・エレキ・音頭」がフジテレビ系ドラマ「おまかせください」の主題歌となり、「おまかせください(ナカムラ・エレキ・音頭)」と改題され、両A面扱いとなり別ジャケット、レーベルの記載も変更されリリースされています(規格番号は変更されませんでした)。