タモリさんのCBSソニー移籍第一弾であるサード・アルバム、録音順では4作目となる『ラジカル・ヒステリー・ツアー』(81年5月リリース)には、桑田さん書き下ろしの2曲が収録されています。
70年代後半、タモリさんは密室芸人としてその名を轟かせカルトな人気を獲得していました。サザンのデビュー後にも「ザ・ベストテン」で中州産業大学芸術学部音楽理論のタモリ教授として講義、桑田さんを押しのけてサザンの演奏をバックに「勝手にシンドバッド」をオリジナルの歌詞でブルマ姿で絶唱、といった共演もありました。
その批評性とエンターテインメント性の高さで伝説となっている『タモリ』『タモリ2』、そしてレコード会社やその他の圧力で一定数しかリリースされなかった『タモリ3 戦後日本歌謡史』をアルファレコードに残したタモリさんですが、CBSソニー移籍後の本作は、基本的に普通の歌もの作品です(それぞれ曲間にはタモリさんの一人複数役のコントが入っていますが…)。タイミング的には前年秋から主婦向けのラジオ番組や日曜お昼の番組を開始する等、タモリさんが徐々にカルトな密室芸人から路線を変更し始めた頃で、レコードの路線もそういった流れの影響があるのかもしれません。そんな中での桑田さんへのオーダーだったと思われます。
モダンジャズのイメージがあるタモリさんですが、本作の演奏は70年代からのトレンドであるフュージョン風味でそれもそのはず、ザ・プレイヤーズかザ・スクェアが作曲家ごとにそれぞれ演奏を受け持っています。桑田さん提供の2曲はいずれも鈴木宏昌さんの編曲で、プレイヤーズ(鈴木さん・松木恒秀さん・岡沢章さん・渡嘉敷裕一さん)が担当しています。プレイヤーズの中心、鈴木さんはアルファ時代のタモリさん作品のサウンド方面の要で、今回も引き続きタモリさんをサウンド面で支えています。ちょうど本作リリース直前に始まった日本テレビ「今夜は最高!」でもプレイヤーズは演奏で出演していました。次作『HOW ABOUT THIS』(これはビクターのインビテーションから出ていますね)でも引き続き鈴木さんと松木さんがタモリさんを支えています。
「狂い咲きフライデイ・ナイト」はほぼ同時期の「I LOVE YOUはひとりごと」に続く桑田さん印のジャズ歌謡です。アルバム中いかにもなジャズ歌謡風の楽曲はこれだけなので、若干浮いてますが、プレイヤーズに数原晋さんのトランペットを加えたタイトな演奏が素晴らしいです。タイトであるが故に桑田さん関連曲らしからぬ雰囲気ですが、やはりメロディやタモリさんの歌唱は桑田さんらしさが出ているかと思います。
「スタンダード・ウイスキー・ボンボン」は一転してアーバンでライトメロウなボサノヴァ風の一曲で、プレイヤーズの演奏がとても良く合っています。特に間奏、松木さんのギターや鈴木さんのエレピ、薄く入ったソリーナがたまりません。コーラスはクレープとクレジットがありますが、詳細不明です。
桑田さん提供の2曲は、アルバムリリースの翌月、タモリさんのファースト・シングルとしてカットされています。
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