2015年3月28日土曜日

Japanese Electric Foundation『Japanese Electric Foundation』

サザン関連、第2回は86年3月にリリースされました『Japanese Electric Foundation』です。そろそろリリースとなります『葡萄』のジャケットは岡田三郎助さんの「あやめの衣」をイメージしているそうですが、見れば見るほどどことなくTodd Rundgrenの香りもしてきますよね。

このアルバムはサザンメンバー野沢“毛ガニ”秀行さんのソロ作品ではあるものの、ビクター(インビテーション/タイシタ)ではなく東芝EMI(当時)の新興レーベルポップサイズからのリリース、さらには毛ガニさんのイメージであるパーカッション・コンガ・ラテンなどといったところからは距離のあるサウンドで、リリースから今に至るまで地味な扱いを余儀なくされている(サザンの公式サイトでもあっさりした説明があるだけです)、でもとっても素敵なアルバムです。


そもそもは80年代前半、順番にサザンのメンバーが自分名義のソロ作品をリリースしていく中、毛ガニさんは西麻布にある個人スタジオRunt Studioによく遊びに行っており、そんな中でアルバムの構想が生まれたようです。このスタジオの主は、荻窪ロフトの運営や錚々たるミュージシャンのマネジメントやディレクターを務めていた小川英則さんでした。毛ガニさんにとって小川さんはデビュー前のサザン、それ以前のマーブル・ヘッド・メッセンジャー在籍中から荻窪ロフトに出演していたこともあり、長きに渡る友人でした。小川さんはそれまでご自身が行っていた裏方的な立場ではなく、自ら表現したいという思いが強くなり、このスタジオを作ったようです。同じくロフト時代からの友人であり、第一期終盤ナイアガラなどの各種セッションや美乃家セントラル・ステイションなどにベーシストとして参加していた六川正彦さんをメンバーに迎え、85年2月に3人でRunt Studioにてデモの録音からスタート。そしてサザンの活動が一段落した85年10月、いよいよレコーディングが開始。上記3人以外にギターに六川さんと同じく美乃家セントラル・ステイションで活動していた土屋潔さん、ヴォーカルにH2O解散直後の中沢堅司さんを起用、さらに曲ごとにゲストを迎えるといったやり方でレコーディングされています。

プロジェクトの名前やコンセプトは英国の同じような名前のプロジェクトと似ていますが、こちらは基本的に中沢さんと小川さんのヴォーカルをメインに据えています。ストレートな往年の名曲というよりは、捻りの入った名曲達をJ.E.F.風に聴かせてくれます。この粋な選曲は、本作のディレクターにもクレジットされた小川さんのセンスでしょう。
アルバムのライナーは何と桑田佳祐さんが担当しています(実はレコーディングにも参加していた桑田さんですが、諸事情によりオールカットの憂き目にあい、代わりにライナーを担当することになったようです)。また、大瀧詠一さんの影響で変名好きだったという小川さんに “桜井鉄太郎”を命名したのも桑田さんでした。当時桑田さんが読んでいた漫画(「日本極道史」でしょうか)から取られているそうです。

本作の後、毛ガニさんとしては第2弾、第3弾の構想がすでにあったそうですが、パーカッション・プレイヤーの職業病ともいえるヘルニアで入院してしまい、J.E.F.自体活動休止となってしまいました。桜井さんはこの後ポップス狂の顔を持つ俳優高嶋政宏さんとReal Pop Organizersを結成(これはJ.E.F.の延長といったサウンドで、こちらの作品も名作です)。その後の活躍はご存知の通りです。ミュージシャン桜井鉄太郎を世に送り出したのは、他ならぬ毛ガニさんだった、とも言えます。



収録曲について簡単に…A-1「HEAR」は桜井さんヴォーカルの、J.E.F.オリジナル曲からスタート。A-2「OPEN MY EYES」はTodd Rundgren作。68年、Toddがソロ以前に在籍していたNuzz 1作目から。なにせ“Runt”Studioの主、桜井さんがTodd絡みの曲を選曲しないわけがありません。中沢さんと桜井さんのツイン・ヴォーカルです。このアルバムからシングルはリリースされませんでしたが、プロモ・シングルはこの曲と「LOVE AGENT」のカップリングでした。A-3「DON'T YOU CARE」はGary Beisbier、James William Guercio、Jimmy Holvay作。67年、The Buckinghamsのヒット曲です。リード・ヴォーカルは桜井さん。A-4「OPEN YOUR WINDOW」はHarry Nilsson作。69年の自身のアルバム『Harry』に収録されており、同年のElla Fitzgeraldや73年のFifth Dimensionのバージョンもありますね。リード・ヴォーカルは中沢さん。A-5「GREEN TAMBOURINE」はPaul Leka & Shelly Pinzコンビ作。67年、Lemon Pipersのシングルとしてリリースされた、全米1位の大ヒット曲です。リード・ヴォーカルは桜井さん。

B-1「LOVE AGENT」はA-1に続きJ.E.F.のオリジナル曲で、唯一の日本語詞です。リード・ヴォーカルは中沢さん。B-2「I CAN TELL WHEN CHRISTMAS IS NEAR」はSteveland Morris & Stevie Wonderコンビ(“&”というか“=”ですが)作のクリスマス・ソングで、70年のSmoky Robinson & The Miracles『The Season For Miracles』にStevie自身のプロデュースで入っています。サロン・ミュージックの竹中仁見さん・吉田仁さんによるツイン・ヴォーカル。B-3「IF I LOVE YOU」はThom Bell & Linda Creedコンビ作。70年にLittle Anthony & The ImperialsのシングルB面としてリリースされてますが、翌年Stylisticsのファースト・アルバムにてThom Bell自身の手でリメイクされており、今回はStylisticsバージョン寄りです。リード・ヴォーカルは中沢さん、コーラスでEPOさんが参加しています。B-4「RED CHAIR FADE AWAY」はRobin Gibb & Barry Gibbの兄弟コンビ作。67年、Bee Geesのサード・アルバム『Bee Gees’ 1st』収録曲で、リード・ヴォーカルは中沢さん。B-5、ラストは「TURN TO STONES」ということでRolling Stonesに捧げたJ.E.F.オリジナル曲で締めくくりとなります。リード・ヴォーカルには楠木勇有行さんと桑名晴子さんを迎えています。

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