2015年7月5日日曜日

サザンオールスターズ『さくら』


今回はサザン98年作、『さくら』についてつらつらと…。

90年代に入りバブルも崩壊すると、桑田さんの目指す場所もそれまでと変わりました。大瀧詠一さんや細野晴臣さん、私的にも仲良くなっていた山下達郎さんのような、レコーディングを極めるミュージシャンズ・ミュージシャン的な存在にならんとしていたかと思います(96年『Young Love』は外部のキーボード・プレイヤーやアレンジャーを起用せず、初めて桑田さん一人が中心となって作られたアルバムでした)。しかし国民的バンドの中心的存在にはあまりそういった目線は注がれません。そんなギャップに対するストレスを抱えたまま不惑の40代に突入、その頃から作曲もスムーズにいかなくなったとのことで、ネガティブな思いが強くなっていたのではないでしょうか。そこに続く不況や世紀末など、当時のあれこれに感じられた終末感が混じり合うことで、このアルバム独特の閉塞感が出来上がったのではないか…というのが私の霊感による妄想です。ProToolsの導入もこのアルバムからで、桑田さん仕切りのレコーディングもより箱庭的になりました(しかしメンバーがいつもの担当楽器以外でも携わっているなど、新たな試みもあります)。

収録曲を一つ一つ見ても、求められているサザンをいかに裏切るかということに注力しているのがわかります。一見いつものサザンらしい曲も、桑田さんとしては嫌味な仕掛けを施したようで、決して面と向かって表さないところが桑田さんらしいというか、さすが国民的バンドを仕切るだけの狡猾さがあります。

リリース後の評価はというと、サザンらしいサザンを期待していたリスナーからは「?」、そして桑田さんが期待するような新規リスナーが増えるわけでもなく、どっちつかずな結果となってしまいました。途方にくれていた桑田さんに届いた「Oh!クラウディア」をもう一度、という声に導かれ、恐る恐る桑田さんが出した曲には「TSUNAMI」というタイトルが付けられていたのでした。

M-1NO-NO-YEAH/GO-GO-YEAH」はいきなりLed Zeppelinもので、恐らくギターやベースはタッチから察するに桑田さんではないでしょうか。M-2YARLEN SHUFFLE」はLeon Russell風ヴォーカルをフィーチャーしたラテン風味の曲ですが、桑田さんっぽいギターとブラス以外は打ち込みメインでクールな手触りがします。M-3「マイ フェラ レディ」は4人の桑田さんと4本のトロンボーンが絡む、久々のエロジャズ歌謡です。八木正生さんと離れて以降、ストレートなジャズものは控えてきた桑田さんでしたが、96年に島健さんと組んでからはこういったアプローチが復活しました。M-4LOVE AFFAIR」はBeach Boysのコンサートを意図したそうで、頭と終わりに歓声が入れられています。ポップな曲なのに、(タイアップのドラマ内容を踏まえただけとはいえ)歌詞は不倫がテーマってのも、病んでる感じがなんとなくBrian Wilsonぽいですね。M-5「爆笑アイランド」は歪んだギターと打ち込みの組み合わせに病んだ世間のスケッチシリーズの歌詞で、ちょっと力み過ぎな感じがします。M-6BLUE HEAVEN」は桑田さんのドブロ・ギターをフィーチャーしたClaptonもので、曲自体はとてもシンプルな作りです。M-7CRY  CRY」は当時の桑田さんのアイドル、Radioheadを意識したそうで、ドラム以外は基本桑田さんの演奏のようです。M-8「唐人物語」は原さんヴォーカルコーナーで、Beatlesの開放弦のあの曲っぽく作り始めたら、全然違う和の香りのする曲になったということです。

M-9「湘南SEPTEMBER」はEagles系ワルツで、“あの頃を生きた街”湘南を回顧する歌詞になってます。M-10PARADISE」はソウル・ディスコ・ヒップホップ的な方向を向いていますが、ちょっとこれも肩に力が入り過ぎてるかなという印象を受けます。M-11「私の世紀末カルテ」は桑田さんソロ『孤独の太陽』の続編のようなアコギ弾き語りで延々病んでる風な中年男性の独白が歌われます。M-12SAUDADE」は小倉博和さんのガット・ギターをフィーチャーしたボッサ風AOR歌謡といったところでしょうか。抑えた桑田さんの歌含め、個人的にはこのアルバム中でも出色の出来だと思います。M-13GIMME SOME LOVIN’」はSMがテーマのGSもの。M-14SEA SIDE WOMAN BLUES」はマヒナスターズ風の和製コーラスもので、ガット・ギターとラップ・スティールは小倉さん、そして、左チャンネルのウクレレはクレジットはありませんが、先のサザン欠席中にウクレレ愛好家に変貌を遂げた関口さんによる演奏のようです。M-15(The Return of) 01MESSENGER」はシングル「01MESSENGER」のアルバム用リミックス(角谷仁宣さんと林憲一さんがクレジットされています)で、ドラムンベースに変貌しましたM-16「素敵な夢を叶えましょう」は『人気者で行こう』『Young Love』と同じく、桑田さんとオーケストラの組み合わせでの締めくくりです。どんな立場でも、“夢を叶える”ということは、なかなか難しいものです。




0 件のコメント:

コメントを投稿