2018年3月31日土曜日

ジューシィ・フルーツ「萎えて女も意志をもて」「海」[桑田佳祐Songbook]

84年5月、ジューシィ・フルーツのLP『Come On Swing』がリリースされます。このLPの先行シングルとして4月にリリースされているのが桑田佳祐さん作の「萎えて女も意志をもて」でした。


近田春夫さんからセルフ・プロデュースの体制にシフトした82年以降、戸田誠司さんを起用した『27分の恋』、翌年の『天然カフェイン』と、充実したリリースを続けましたが、83年秋にはベスト盤『メビウス・ゲーム』をリリース、バンドとしてはその辺で飽和状態だったのか、メンバーとしてはそろそろ…、事務所のアミューズとしてはまだまだ…といった状況になっていったようです。チャート・アクション的にも地味になってきていましたので、「これが売れたらまだ続けよう」という事務所の意向込みでレコーディングされた作品が、『Come On Swing』だったというのが、『ゴールデン☆ベスト ジューシィ・フルーツ ー多汁果実 品質特撰ー』のライナーで明かされています。

そんな両者の思惑が同じ事務所の桑田さんにどこまで伝わっていたかはわかりませんが、桑田さんから出てきたのは提供曲ではおなじみの路線であるジャズ歌謡ものでした。編曲のクレジットは桑田さんと八木正生さんの連名で、八木正生グループをフィーチャーしたサウンドは、ジャズ歌謡路線の極みといった出来です。クレジットはありませんが、途中で低くハーモニーを付けているのも桑田さんでしょう。

シングルのチャート・アクションは最高85位で、前後のシングルよりは好成績でしたが、85年1月をもってジューシィは発展的に、解散することになるのでした。


さて、このシングルはB面も桑田さん書き下ろしで、70年代ソフト&メロウ〜AOR路線の「海」という曲が入っていました。当時サザンでもこの手の路線は定期的に手を出していた桑田さんですが、この曲はよっぽど気に入ったようで、数ヶ月後のサザン『人気者で行こう』セッションでほとんど同じ方向性のサウンドでセルフカバー、先行シングルとして予定されるまでに至ります(結局ユーロ・ポップス・ミーツ・テクノの「ミス・ブランニュー・デイ」に変更されますが)。

ジューシィのオリジナル・バージョンは柴矢俊彦さん・沖山優司さん・高木利夫さん(イリアこと奥野敦子さんはヴォーカルのみの参加のようです)に、キーボードはクレジットから察するに中西康晴さん・ホッピー神山さん辺りでしょうか。サックスは矢口博康さんと思われます。イリアさんの艶っぽいヴォーカルがとても良く合います。

サザンのセルフカバーのほか、同年に宮本典子さんがフュージョン色が濃厚な『Sweet Sugar』にて英詞でカバーしています。編曲はDerek Jackson、ブラスアレンジは新田一郎さんがクレジットされています。また、90年に芳本美代子さん、本田理沙さんとアイドルお二方にカバーされています。いずれも編曲の方向性はオリジナルと変わらず、ソフトでメロウなAOR路線です。いわゆるコテコテの60s歌謡曲路線以外での桑田さんの楽曲にしては珍しく、女性によるカバーが多い楽曲となりました。

ということで、狙いを定めたA面と何気ないB面(だったかどうかわかりませんが)、それぞれの対比が面白いシングルとなりました。この後、桑田さんの意向なのか、背景はよくわかりませんが、桑田さんが外部へ楽曲提供することは無くなりました。唯一、90年代末に突如オファーが発生し、それに応えることになります。

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