2017年7月27日木曜日

上田正樹「ミス・ユー・ベイビー Miss You Baby」[桑田佳祐Songbook]

1983年4月に公開された村上龍さん原作の映画「だいじょうぶマイ・フレンド」は、1979年の映画「限りなく透明に近いブルー」と同じく制作キティ・フィルム、脚本・監督も村上龍さんという体制で作られました。「限りなく透明に近いブルー」のサウンド・トラックは星勝さん編曲による洋楽カバー中心で、井上陽水さん、山下達郎さん、上田正樹さん、小椋佳さん、カルメン・マキさんなど、錚々たる皆さんをヴォーカルに迎えた作品でしたが、第二弾の本作は音楽監督に加藤和彦さんを迎え、実際の音楽は当時加藤さん関連の作品でも多数の名曲を繰り広げていた清水信之さんが担当しています。このサウンド・トラックに収められた上田正樹さんの「ミス・ユー・ベイビー」が、桑田さんのペンによる楽曲でした。83年4月の公開と同時にサントラがキャニオンから、またシングルが上田さんの契約していたCBSソニーからリリースされています。


楽曲はサザン「栞のテーマ」をぐっとブルージーにしたような三連のロッカ・バラードで、桑田さんの提供曲の中では出色の出来です。既にサザンは既存路線から離れようとしていた頃で、数ヶ月後にリリースされる『綺麗』では三連でもアプローチを変え繊細さを前面に出した「NEVER FALL IN LOVE AGAIN」が収録されます(その後も「Dear John」「悲しみはメリーゴーランド」と、バラエティに富んだアプローチが続きます)。既存のサザンの雰囲気を残した桑田さんの三連シリーズは、この「ミス・ユー・ベイビー」でいったん締めくくりを迎えたと言えます。なお、歌詞が女性目線の内容ですが、これはおそらく映画の内容を踏まえて書かれたのでしょう。

クレジットがありませんが、おそらく演奏や打ち込みは編曲の清水信之さんが一人で担当されていると思われます。当時のEPOさん等でおなじみの黒くてもポップなセンスは変わりませんが、一人多重でやっているところが個人的にポイント高いです。ドラムはリン・ドラムでしょうか。間奏での2本対位でのギター・ソロもたまりません。また、コーラスに須藤薫さんを起用しているのが素晴らしいアクセントになっています。

当時の上田さんは『After Midnight』から82年10月に「悲しい色やね」がシングル・カット、これが緩やかにチャートを駆け上り、ピークに達したのが83年6月のことなので、まさにそのヒット直前に「ミス・ユー・ベイビー」はリリースされたことになります。こちらもバラードでしたので、ちょっとリリースのタイミングは良くなかったかもしれません。その後、キティ原盤ということなのか、同年9月公開のキティ・フィルム制作映画「みゆき」でも使用され、サントラLPに収録されました。


同年10月にリリースされた上田さんのアルバム『Husky』では、「Miss You Baby」として新たに星勝さんの編曲でリレコーディングされています。こちらは上原“ユカリ”裕さん、中村裕二さん、中西康晴さん、川島裕二さん、青山徹さんらによる演奏です。サックスとして砂原俊三さん、井上大輔さんのクレジットもあります。歌詞は映画と関係なく、純粋に上田さんのアルバム用の楽曲となったためか、男性目線の内容に書き直され、若干英語が減っています。ミックスは当時のCBSソニーらしく?、吉田保さんです。なお、『Husky』バージョンの「Miss You Baby」は通常のシングルは出ませんでしたが、プロモ盤シングルは作られています。

上田さんと桑田さんという珍しい組み合わせではありますが、個人的にはジューシィ・フルーツ「海」とともに、桑田さんの提供曲の中ではフェイバリット・ナンバーのひとつです。


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