2016年11月30日水曜日

高樹澪「恋の女のストーリー」「MIO-SUN」[桑田佳祐 Songbook]

1981年、アミューズが映画制作部門アミューズ・シネマ・シティを設立します。小学生の頃から映画狂で、もともとは映画の世界に進もうとしていた大里洋吉さんですから、アミューズ設立後も、虎視眈々と映画界への参入を狙っていたかと思います。第一弾作品として制作・6月に公開されたのが「モーニング・ムーンは粗雑に」でした。桑田佳祐さんが音楽監督のみならず企画としてクレジット(ホントかどうかわかりませんが…そもそも制作前段階では主演という書き方をされた記事もありましたので、事務所の意向はそうだったのかもしれません)され、サザンの新曲が多く使われることになりました。配給はスーパーハリウッドという、大きく出た名の謎の組織ですが、これも大里さんが率いています。映画新規参入者という自身の立場を逆手に既存の配給ルートは使わず、既にアミューズで培ったコンサートのノウハウを流用し、全国の小ホール等で上映するという、ひと味違ったインディーな手法で展開されました。

映画の出来は現在気軽に見ることの出来るWeb上のレビューでも散々なものばかりなので多くは触れませんが、81年7月リリースの『ステレオ太陽族』収録のサザンの楽曲が映画用モノ・ミックスで、また未完成バージョン(「ステレオ太陽族」「栞のテーマ」)やリリースされていない楽曲(ディスコのシーンでのインスト、また「I'm just a cherry boy 夢見るだけの〜」から始まるハチロクの曲)も聴けるという点で美味しい映画と言えます。

映画の主演はアミューズでなく成プロ所属で「モーニング・ムーンは粗雑に」がデビュー作である高樹澪さんです。彼女が劇中で歌い、デビュー曲として8月にキャニオンからリリースされたシングルが「恋の女のストーリー」と「MIO-SUN」のカップリングでした(両A面、と言っていいのかどうかはっきりしませんが…)。両面ともに桑田さん作・八木正生さんの編曲です。


「恋の女のストーリー」は、高樹さんによると歌唱指導に現れた桑田さんが目の前で数分で書きあげた曲だったということで、桑田さん自身もメロディは15分ぐらいで書いたと語っています。Beatlesの某曲冒頭のコード進行をベースに、Billy Holidayっぽいものやりたいと思いながら書いたそうです。高樹さんのバージョンは、気だるくちょっと背伸びした感じの歌唱が味わい深いです。劇中の(マイム)演奏でHARABOSEの方々が登場してますが、レコードのバージョンもこれと同じベーシックトラックを使っているように聴こえますので、実際の演奏も同じ方々なのでしょうか?82年6月リリースのファースト・アルバム『NADA』に収録された「恋の女のストーリィー」はチト河内さん編曲の他の曲にあわせた、ジャズ歌謡風の完全別バージョンです。こちらも八木さんが編曲にクレジットされておりますが、むしろシングルはどこまで八木さんが関わっているのか不明ですね(劇中の演奏にアコギとサックス、ストリングスが加えられていますが…)。


さて、もう一方の「MIO-SUN」(何というヒネリの無さ)、どうも雰囲気的には70年代の女性SSW、というかCarole Kingあたりを意識したんでしょうか?爽やかで、少し切ないメロディを高樹さんの味のある歌唱と八木正生さんがクレジットされた編曲の演奏が彩ります。これもHARABOSEの皆さんのリズムでしょうか。斎藤誠さんかもしれないクリアトーンのギター、とても聴かせます。「恋の女のストーリー」も劇中では作曲者夫妻のハモりが聴こえていましたし、「MIO-SUN」でも、サビのオクターブ下の男声コーラスはやっぱり作曲者の方でしょうか。こちらは『NADA』の収録は漏れましたが、83年8月リリースの12インチ『TO SING AGAIN』に収録されました。



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