2015年8月30日日曜日

関口和之 & 砂山オールスターズ『World Hits!? of Southern All Stars』


サザン関連作品をご紹介するシリーズ、今回で一段落となります。サザンのベーシスト関口和之さんは、サザン初期に作曲を手がけた作品はどれもビートリーなものでしたが、83年『綺麗』ではアルバム・コンセプトに合わせたニューウェーブ路線にシフトし、その路線は86年のファースト・ソロ・アルバム『砂金』まで継続しました。その後いろいろあって、95年にサザンに復帰した頃はすっかりウクレレ愛好家の地位を不動のものとされておりました。その後のソロ作品は全てウクレレを核としたコンセプト・アルバムばかりで、ご本人はヴォーカリストやプレイヤーというよりはプロデューサーのポジションから作品を手がけているのが大きな特徴です。

さて今回の『World Hits!? of Southern All Stars』は01年、急遽サザンの活動が止まってしまってリリースもライブも出来なくなったタイミングで、なんとサザンの楽曲をウクレレ愛好家がワールドミュージック的な視点からカバーするという、異色作にして意欲作として飛び出した作品です。個人的にはプロデューサー・関口和之の現時点でのベスト作と思っています。

当初は当時すでにSoul Loversやケツメイシに関わっていたYANAGIMANこと柳満夫さん(97年の『UKULELE CALENDER』や『口笛とウクレレ』でもかなりご活躍でした)と作業を始め、さらにLittle CreaturesやDouble Famous(当時)の青柳拓次さんの演奏を見て声をかけたということで、主にこのお二方がサウンド作りの要となっています。そこに高野寛さんが一曲、鈴木惣一朗さん(『口笛とウクレレ』でも参加されていました)が在籍していた時期のNoahlewis' Mahlon Taitsが一曲を受け持っています。それまでの作品のようにウクレレ主体でサウンドを組み立てるのではなく、サウンドありきでウクレレを必ず入れる、といういつもとは逆の発想で作られていることで非常に表情豊かな作品になっています(ウクレレ愛好家としてはあくまで亜流なのかもしれませんが…)。さらに、サザンのメンバーによるカバーということで、オリジナルをなぞるような凡庸なカバーから遥か彼方に距離を置いたのがかなり吉と出ています。

M-1「涙のキッス(a cappella)」は特にどこの地方という観点で作られた訳ではなく、関口さんの前年作『口笛とウクレレ』で使ったオアフで録ったSEを使うことで前作の続きであることを示しているようです。M-2「ミス・ブランニュー・デイ」はジャマイカはキングストンということで、レゲエものに生まれ変わりました。柳さんのアレンジで、iwaoこと山口岩男さんと関口さんのウクレレがギターの代わりに裏打ちのビートを奏でており、オートチューンが使われたリードヴォーカルは関口さんご本人によるものです。ハワイ島のイメージで選ばれたのはM-3「Ya Ya」で、青柳さんアレンジでスラック・キー・ギター等のハワイ楽器も青柳さん、同じくDouble Famousの栗林慧さんも関口さんと共にウクレレを奏でています。キューバ・ハバナとして選ばれたのが前年のヒット曲M-4「HOTEL PACIFIC」で、オリジナルも桑田さんの「こういうのが好きなんでしょ?」という声が聞こえてきそうなどラテン歌謡でしたが、それをさらにやさぐれ歌謡の方向に持って行ったそうです。玲葉奈(現Leyona)さんをヴォーカルに迎え、青柳さん仕切りのソリッドなサウンドの「HOTEL PACIFIC」になりました。本作から12インチとしてシングル・カットされています。

M-5「愛の言霊」はコロンビアはサンタ・マルタで、関口さんの持つ「危険な場所」というイメージに沿った青柳さんのサウンドは、メレンゲやボンバなどとハウスを融合させたスタイルになっています。ブラジル・リオデジャネイロはM-6「涙のキッス」を柳さんによるループに青柳さんのギターをフィーチャーしたボサノヴァもの。関口さんがJoao GilBertoを聴いてるうちに思いついたそうです。M-7「みんなのうた」はアメリカはカリフォルニアということで、高野寛さんによるBeach Boysものに仕上がりました。ペティ・ブーカをヴォーカルに迎えた、とにかく楽しい雰囲気に仕上がっています。

M-8「希望の轍」は一応ミシシッピということですが、正直そこにそれほど強い意味は無いようで、Noahlewis' Mahlon Taitsと関口さんのウクレレによる3拍子のオールド・スタイルなアメリカン・ミュージックの世界。リードを取っているのはNoahlewisの森谷文哉さんによるノコギリです。本作は全て関口さんのNofofon Studioで録音が行われていますが、この曲のみ、本作リリース直後に下北沢でオープンすることとなるノアルイズ・レコード予定地にて、一発録りのアナログレコーディングということです。さてここでシングル曲でない、83年『綺麗』収録の関口さん作M-9「南たいへいよ音頭」が柳さんアレンジで、トリニダード・トバゴということでスティールパンを引っさげて唐突に登場です。そもそもこの曲は『綺麗』のコンセプトに合わせたファンカラティーナ等を意図して書かれ、その時は歌詞はバリを想定していたそうなのですが、これが某音楽誌の某中村編集長に絶賛され「南太平洋よりはスティールパンが合いそう」と誌面で助言されていたことへ18年ぶりの回答と思われます。M-10「Big Star Blues」は大胆にも沖縄ものになりました。柳さんのキーボードと打ち込み、関口さんの三線とウクレレで奏でられる、沖縄の音と自然を表現したという不思議な「Big Star Blues」です。次はカメルーンでM-11「真夏の果実」、柳さんによる打ち込みのクールなビートとカリンバ、そしてSoul LoversのMahyaさんによるコーラス等が素晴らしく、個人的には本作で1、2を争う好みの曲です(もう1曲は「南たいへいよ音頭」です)。そして北欧アイルランドはダブリンからケルトものになってやって来たM-12「クリスマス・ラブ」。青柳さんと関口さんによる演奏は、子供がトイピアノを弾いているクリスマスの家庭をイメージしたというユニークな音処理になっています。そしてイビザ島から宇宙へということでM-13「忘れられたBIG WAVE」は『口笛とウクレレ』での未発表のアイディア、口笛とループにラジオのチューニング音を合わせるというチルアウトになっています。

最後の最後にお土産ということで関口さんがサンディエゴのホテルのバルコニーで録ってきた前年の大ヒットM-14「TSUNAMI」、KAWAIKAのウクレレでOhta Sanのスタイルを意識しての演奏です。

関口さんは現在、ウクレレ布教活動を行いながらもハワイにウクレレ・ミュージアムを建設するという夢に向かって邁進中です。是非、叶えてほしいと思っています。


2015年8月11日火曜日

Denne And Gold 「Let's Put Our Love Back Together」「Don't Go Away (And Take Your Love Out Of Town)」and others [Ken Gold Songbook]

米国のソウル・シンガー達に作品が取り上げられ、Real ThingやDelegationで英国でもヒットを飛ばし始めた作家コンビMicky DenneとKen Goldは、77年暮れから彼等名義のアルバム制作に入ります。77年9月にシングル「Midnight Creeper」c/w「You've Got To Give Me All Your Lovin'」がリリースされ、翌年シングル「Let's Put Our Love Back Together」c/w「Don't Go Away (And Take Your Love Out Of Town)」とLP『Denne And Gold』がリリースされました。ただし、調べてもシングルはUK、LPはUSでしかリリースされた形跡がありません(CDは日本だけですね…)。

Real ThingやDelegation、RealisticsでもおなじみのLynton Naiffがキーボード(シングルではアレンジャーとしてクレジット)を担当しており、Gold・Denneと共にサウンド作りの要となっているのが伺えます。LPにプロデュースのクレジットは無く、エグゼクティブ・プロデューサーにGeorge Leeという方がクレジットされておりますが、この方の経歴はわかりません(77年同じくMCAからリリースされたB. J. ThomasによるBeach Boysのカバー「Don't Worry Baby」シングルでもエグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされているようですが、それ以外あまり情報がありません)。ただし、2枚のシングルにはKen Goldプロデュースのクレジットがあります。

A-1 Let's Put Our Love Back Together
A-2 It Hurts To Watch A Good Thing Die
A-3 Midnite Creeper
A-4 Don't Go Away (And Take Your Love Out Of Town)
A-5 You've Got To Give Me All Your Lovin'
B-1 We've Got It Jumpin' Now
B-2 I Can't Ask For Anymore Than You
B-3 Why Do We Hurt Each Other [*Denne]
B-4 Uncertain
B-5 If I Could Just Be With You Tonight

Delegation『The Promise Of Love』に近い、フィリーの影響が感じられ、もちろんシカゴ・ソウルの影響もありますが、全体としてはどこか垢抜けないスワンプ風味が散りばめられている、軽めで清涼感が漂うブルー・アイド・ソウル作品に仕上がっています(金澤寿和さんも日本盤ライナーで書かれていますが、Hall & Oatesのアトランティック時代のような雰囲気もあります)。特にその後の洗練されたGoldプロデュース作品群と比べるとちょっと泥臭く、別の味わいがあると思います。

何と言ってもシングル・カットされた1曲目フィリー風ミディアム「Let's Put Our Love Back Together」からメロウで素晴らしいです。歌い出しのヴァースはMicky Denne、「I may be〜」のヴァースはKen Goldがリードを取っているようです。「Let's Put Our Love Back Together」のシングルB面に収録された「Don't Go Away (And Take Your Love Out Of Town)」もフィリー風味のスローで、非常に味わい深い出来です。


また、当シリーズ的にはちょっとズレますが、唯一Micky Denneの単独作である「Why Do We Hurt Each Other」はファルセット多用のシカゴもので、とてもいい出来だと思います。「It Hurts To Watch A Good Thing Die」もいかにもなAOR調のメロウな仕上がりです。「We've Got It Jumpin' Now」は(これも金澤さんが日本盤ライナーで書かれていますが)UK大御所の80年シングル曲と同じ方向を向いています。「I Can't Ask For Anymore Than You」「You've Got To Give Me All Your Lovin'」は76年のCliff Richardへの提供曲、「Uncertain」は77年Jimmy Helmsへの提供曲のそれぞれセルフカバーです。

 

(2020/3追記)
シングル曲「Midnight Creeper」「Let's Put Our Love Back Together」、またLPの「If I Could Just Be With You Tonight」の3曲は1976年にDenny McCaffreyがレコーディングしたものの、未発表となった楽曲のセルフカバーだったようです。
tuesday breakheart: Denny McCaffrey「Midnight Creeper」「Goodbye For The Last Time」「Take Good Care Of Yourself」「Times」and others [Ken Gold Songbook]